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東京地方裁判所 昭和29年(モ)3451号・昭29年(モ)3155号 判決

債権者 新野貞夫

債務者 木村元

一、主  文

当裁判所が昭和二十九年(ヨ)第一七七四号不動産仮処分申請事件について同年三月四日、同年(ヨ)第一八一三号不動産仮処分申請事件について同年同月八日した仮処分決定は、いずれも取り消す。

債権者の本件仮処分申請は、いずれも却下する。

訴訟費用は、債権者の負担とする。

この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

二、事  実

第一当事者の申立及びその理由

(一)  (申立)

債権者訴訟代理人は、主文第一項掲記の各仮処分決定は認可するとの判決を求め、その理由として、次のとおり陳述した。

(理由)

債権者は、昭和二十八年十二月二十二日別紙目録<省略>記載の土地をその所有者中村克己から買い受け、即日、所有権の移転登記手続を終えその引受を受け、自己の営業用の古木材等の材料置場として、周囲にスノコ型の囲いをめぐらして、占有使用してきたところ、債務者は、寺田安治等とともに、昭和二十九年三月三日早朝、人夫十余名を使い、債権者に対抗し得べき何等の権原がないにかかわらず、債権者の施した囲いを破つて本件土地に侵入し、地上に置いてあつた債権者の木材を片隅に取り片づけ、債権者の本件土地に対する占有を実力をもつて奪い取り、債権者の制止をもきかず、改めて、みずから、その周囲に鉄線を張りめぐらし、すでに切り込んである材木を運び入れる用意をととのえる一方、土台をすえ、建物の建設に取りかかつたので、債権者は、債務者に対する占有回収の訴の提起を準備するとともに、その請求権の執行を保全するため、昭和二十九年三月四日東京地方裁判所に対し仮処分を申請し(同庁同年(ヨ)第一七七四号)、同日債務者が本件土地の上に建物その他の工作物を築造することを禁ずる旨の仮処分決定を得たが、債務者は工事を急ぎ、別紙目録記載の建物を築造完成せしめんとしているので、同月八日、更に、本件土地及び建築中の建物に対する債務者の占有を解いて、債権者の委任した東京地方裁判所執行吏にその保管を命じ、債務者の建築続行(但し、保存工事を除く。)を禁止する等の仮処分決定(同年(ヨ)第一八一三号事件における決定)を得たのであるが、右各決定は、いまなお、これを維持する必要があるので、その認可を求める。

本件土地は、中村克己が、昭和二十年三月十日、その実母トミの死亡による遺産相続によりその所有権を取得すると同時に、所有の意思をもつて、その占有を始め、爾来、更地のまま、占有を継続していたものであるが、債権者は、昭和二十八年十一月十五日頃右中村から、「周囲に柵を作り材木でも置いて使用しておいてくれ」と頼まれ、同年十二月五日柵を作り、更に二、三日後中村からその引渡を受けて自己の材木を置いて、本件土地を占有しこの債権者を占有代理人とする占有は、債権者がその所有権を取得し、みずから所有の意思をもつて占有を始めるわけで継続したものである。債務者は昭和二十八年十一月十二日頃本件土地について地鎮祭を行い、爾来この土地を占有していたと主張するが、このいわゆる地鎮祭たるや、本件土地の一角に、一間四方に一本ずつの竹を立て、シメ繩を張つたに止り(地鎮祭当日債務者がその主張のような標識を立てたことは知らない。)しかもこれも間もなく倒れて跡形もなくなつたのであるから、これをもつて債務者が本件土地の占有を開始したものと見ることはできない。仮に、この地鎮祭をもつて本件土地の占有を初めたと認めるとしても、債務者のこの占有は、中村の占有を実力をもつて排除して開始されたものであるところ、中村は十二月五日頃、自力救済によつて債務者の占有を排除して、木柵を施し、自己の占有を回復し、これを債権者に引き渡し占有させたのであるから、同人の占有は前後継続し、更に、そのまま、債権者に引き継がれたものである。

(二)  債務者の申立及びその理由

(申立)

債務者訴訟代理人は、主文第一項同旨の判決を求め、その理由として、次のとおり陳述した。

(理由)

債権者主張の事実中本件土地がもと中村克己の所有で、更地であつたこと及び債権者主張の日その主張のような所有権移転登記のされていることは認めるが、本件土地が債権者の所有に属することは争う。本件土地は、昭和二十八年十一月十日寺田安治が、権利金三十五万円を支払つて、所有者中村克己の代理人である実父中村作次郎から賃借し、債務者は所有者の承諾を得て、これを寺田から転借し、同年十一月十二日、その上に債務者が事実上の主宰者である笠間稲荷講社の建物を建設すべく地鎮祭を行い、同時に「笠間稲荷建築敷地」と書いた標識を立てて占有を開始し、爾来建築の準備をするとともに、土地をととのえ、周囲に鉄条網を張り、昭和二十九年三月四日木造瓦葺平家一棟(建坪十八坪)の上棟を終え、着々建築工事を進めていたところ、本件仮処分の執行を受けたものである。このように、債務者において、借地権に基き適法に占有を継続している間に、債権者は、債務者の占有使用を妨害しようとして、債権者主張の頃、本件土地の一部に木材等を置き、囲いをしようとしたので、債務者はその占有の妨害となる材木等を取り片づけたものであり、決して債権者の占有を侵害したものではない。むしろ、債権者は、中村克己から、債務者が賃借している土地であることの申送りを受けておりながら、あえて、債務者の占有使用を侵害したものである。従つて、債権者の本件仮処分申請は、いずれも理由がないものとして、却下さるべきである。

第二疏明

<省略>

三、理  由

まず、本件仮処分によつて保全されるべき権利の存否、従つて本件土地についての債権者の占有に対する侵奪があつたかどうかについて判断するに、成立に争いのない甲第二及び第三号証の各一、二同第四号証、乙第四号証、同第五号証の一、二証人中村克己の証言によりその成立を認め得る甲第六号証、証人新野チヨの証言によりその成立を認め得る甲第十一号証、証人寺田安治の証言によりその成立を認め得る乙第三号証の一から三並びに証人中村克己、新野チヨ、寺田安治、中村作次郎及び寺田しずの各証言を綜合し、これに本件口頭弁論の全趣旨を参酌して考えると、

(一)  別紙目録記載の土地は、中村克己の所有にかかり、終戦後は、地上建物が戦時中焼失したまま、更地となつており(本件土地が中村克己の所有に属し、更地となつていたことは、当事者間に争いがない。)、所有者たる中村克己は名古屋市に居住している関係から、その土地のすぐ近くに居住する計良とみにその管理を託し、計良がその上に、時折、少しばかりの野菜などを作つている状況であつたが、昭和二十八年十一月十二日、寺田安治及び債務者等が、中村克己の代理人中村作次郎(克己の実父)からこの土地を借り受けたとして、債務者を主宰者とし、寺田安治等を講員とする笠間稲荷講社のため建物(建坪約十八坪)を建築すべく、その地鎮祭を取り行つたこと、

(二)  この地鎮祭に当つては、本件土地六十四坪九合三勺のうち約四十坪の部分について、草をとり、所々に砂などを撒き、その中央に一間半四方に青竹一本ずつをたて、その間にシメ繩等を張り、講の関係者等十二、三名参列のもとに、型のとおり、清め払い式を行つたこと、

(三)  右地鎮祭の終つた後、債務者は、右四十坪の地内に巾二、三丈、長さ三尺位の板に「笠間稲荷建築敷地」と書いた標識を立てておいたこと、

(四)  債務者等によつて、このような地鎮祭の取り行われたことを計良から知らされた中村克己は、同月十五、六日頃急いで上京し、債権者に本件土地の周囲に木柵を設けるよう依頼するとともに、債権者にこの土地の使用を許したこと、

(五)  債権者は、同年十二月五日、その周囲に木柵を施すとともに、両三日後木材等を持ち込み、本件土地の使用を始めたこと、

(六)  このため、さきに、債務者等が地鎮祭を取り行つた際の竹その他はもち論、前記(三)の標識も、ほとんど跡をとどめない状態となつたこと、

(七)  その後、中村克己から本件土地を買い受けたとする債権者と、その借地権を主張する寺田安治及び債務者は、互に、本件土地の使用権を主張して譲らなかつたが、ついに昭和二十九年三月三日早朝、債務者及び寺田安治は、人夫等を使用して、債権者が施した柵を破て本件土地に入り、それまで置いてあつた債権者の材木等を片づけ、新に木材を運び込んで、講社用建物の建設にかかつたこと、

(八)  ここにおいて、債権者は、債務者及び寺田安治によつて、本件土地に対する占有を侵奪されたとして、本件仮処分の申請に及んだこと

を、一応、認めることができ、これを覆すに足るような疏明はない。

しかして、債権者債務者間の本件土地の占有に関する事実関係が上に掲げたとおりであるとすると、債権者が主張するように、債務者が、本件土地に関する債権者の占有を侵奪したと見るよりは、むしろ、債権者が債務者の占有を侵奪したものといわざるを得ない。蓋、債務者その他の者が、昭和二十八年十一月十二日、いわゆる地鎮祭を取り行い、(一)から(三)に掲げたような外形的な措置を講じたことは、社会通念上、本件土地について、之の占有を開始したものと認めるに十分であり、債権者は、その後、本件土地の周囲に柵を施し木材等を運び込むことによつて、実力をもつて、債務者の右占有を奪い取つたものと見ることができるからである。従つて、更にその後に至り、債務者及びその関係者が、実力によつて債権者の本件土地に対する支配を奪い、建物の建築に取りかかつたとしても、(その実力行使自体は、さきに債権者の行為と同様、争いある権利関係を一挙に、実力をもつて解決しようとするもので、法秩序維持の上から、また、社会生活の見地から、ともに、甚だしく非難さるべきものであることは、多言を要さないところである。)債権者において、これに対して占有回収の訴により法律上その回復を請求し得べき筋合ではないといわなければならない。

債権者は、この点に関し、「債務者は中村克己の占有を侵奪したものであり、中村克己は、その後、自力救済により、その占有を回復したものであり、債権者は右克己の占有を承継したものである。」旨主張するが、債権者がみずからのために本件土地の占有を開始する以前に債務者がその占有を開始したこと、上に説示したとおりである本件においては、債権者において、中村克己の占有を承継する余地はあり得ないし、一般的に法の是認しない自力救済によつて作り出された事実に対し法の保護を求めることはそれ自身矛盾といわなければならない。

果して然らば、専ら、債権者と債務者との間の本件土地に関する占有関係のみについて判断すべく、中村克己と債務者又は寺田安治との関係、債権者債務者が、その主張するように、それぞれ本件土地の所有権又は賃借権を有しているかどうかについて考慮する余地のない本件においては、債権者の提出援用する疏明をもつてしては、いまだ、本件各仮処分によつて保全さるべき請求権の存在を肯定するに足りないといわざるを得ないのであるから、債権者の本件各仮処分申請は、他の点について判断するまでもなく、いずれも、これを却下するほかはない。

よつて、債権者の申請を認容してした主文第一項掲記の各仮処分決定は、いずれもこれを取り消すこととし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を、仮執行の宣言について、同法第七百五十六条の二を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 三宅正雄 福森浩 長久保武)

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